「フライト・シミュレーター」とは飛行(flight)を模擬する装置(simulator)、リアルの航空業界においてはパイロット訓練用の設備の一つです。
飛行機の免許を取る人は普通の操縦はもちろん、万が一の場合に対処操作を冷静沈着に速やかに実行できなければダメなわけです。たとえば飛んでる最中にエンジンが故障したらどうするか?とかですね。こういう実際の飛行機でやると危険な事とかあるいは経費節減の理由から、航空会社では本物そっくりに操縦席を再現した装置による訓練を行います。この設備が、航空会社にある本物のフライト・シミュレーターです。
一方、ここで扱う PC 用のフライト・シミュレーターとは「ゲームにおける一つのカテゴリ」になります。
ゲームのフライト・シミュレーターは、リアリティの追求度によって、おおまかに3タイプに分かれます。
- エンターテインメント性を無視した、準「訓練用シミュレータ」的なタイトル
- リアリティを温存しつつもエンターテインメント要素と両立させるため割り切りのあるタイトル
- ストーリーや演出、アクションを楽しむゲームで、飛行機の操縦は簡易的なもの
現在”PC フライトシミュレーター”をネットで検索して出てくるタイトルの多くは 1. に相当するものがほとんどでしょう。 FSX, P3D, X-Plane, DCS World 等といったタイトルがこれです。2. は今ではほとんど絶滅してしまいましたが、かつてのマイクロプローズやノバロジックが発売していたゲームがこれにあたるでしょう。そして3.はゲーム専用機、たとえばXBOXやプレステのフライトゲームはこれに相当するものが多いでしょう。3番目のカテゴリはフライトシューティングとも呼ばれたりします。
そして、本サイトにおける”フライトシム”は主にタイプ1に相当するタイトルになります。
フライトシムはオープンワールド
このタイプのフライトシムの遊び方は、たぶん普通のゲームのプレイヤーには想像しにくい遊びなので、知らない人向けに解説しましょう。そもそもの話「エンタイテイメント性を無視」しているのに何を楽しむというのか…???
タイプ1プレイヤーのコンセプトは一言でいうと「究極のゴッコ遊び」です。オッサンが子供の頃にプラモデルを手にしてブンドドした遊び、あの延長にあると思ってください。
民間機フライトシムの代表は FSX, P3D, X-Plane ですが、これらは普通のゲームでいうところのシナリオやクリア目標はなく、ゲームを起動したらプレイヤーが選択した空港に飛行機に乗った状態で放置されるので好き勝手に飛んだり墜落したりして好きなときに終了する、というだけのものです。そのかわりこれら代表作はいずれも、飛行機のシステムが本物そっくりに作りこまれており全世界の地形と空港が網羅されていて、本物の飛行機そっくりのプロセスで操作してどこへでも自由に飛んでいって着陸することが可能です。
クリア目標とかはないのでどう遊ぶかはプレイヤーの自由なんですけども、ここで『目的もシナリオもないゲームはつまらないし飛行機にはさっぱり興味がない』と思った方は残念ながらリアル系フライトシムでは楽しむのは難しいでしょう。合う合わないの問題なので、焼酎が合わない人が無理して焼酎を飲む必要がないように、合わないものを無理に遊ぶ暇があったら自分が楽しめるゲームをやったほうが良いです。
一方で、飛行機が好きで自分でも操縦してみたいと思う人はもちろん向いてるわけですが、そうでなくてもプラモデルを作るのが好きな人だとか、あるいはPCゲームで一般的になってきた『本編のゲームを無視してMODで環境をつくるのが好き』っていう人は、あんがいフライトシミュレーター適性があるかもしれません。
というのも、このタイプのフライトシムは空に特化した究極のオープンワールド&サンドボックスゲームなんですね。昨今はPCゲーマーに “MOD” という単語がすっかり浸透しましたが、昔からフライトシマーは同様の「アドオン」の仕組みを使ってシミュレータを自分の箱庭のように、こつこつと好きなように構築する遊び方をしてきました。例えば FSX/P3D の祖先であるところの 1997年発売の Microsoft Flight Simulator 98 では、マイクロソフトから公式にアドオン(今でいうMOD)の開発キットが提供されサードパーティから多数の追加機体や追加空港、シーナリ(風景)のアドオンが有償/無償で流通しておりました。
そして今現在も FSX/P3D/X-Plane 向けに様々なアドオンが、サードパーティーの団体あるいは個人によって開発・提供されていて、フライトシマーであればバニラそのままでプレイしているというケースは少なく、たいてい何かしらのアドオンを導入しています。
現在のフライトシムゲーム業界は、残念ながら新タイトルがどんどん出る時代ではなくなって久しくそのため皆同じタイトルを何年もしつこくプレイしつづけているのが現状です。しかしながら現行フライトシミュレーター(FSX/P3D/X-plane)のアドオンはけっこう頻繁に新作や更新があるため、「もうこのゲームはやり尽してやることなくなったな」というような感触はありません。大型アドオンだと機体のモデルもシステムも作り込みが半端ないものがあり、そのようなアドオンはそれ一つで新作タイトル一本に匹敵します。このように次々とリリースされる新作アドオンをチェックし、それらを取捨選択して自分で好みの世界を作っていくのはフライトシミュレーターのプレイの醍醐味のひとつです。
個人的な感想ですが、PCゲーマーのなかでもフライトシム系はちょっと立ち位置がアウトサイダーっぽいのですが、ひとつには飛行機を飛ばすこと(プレイ)そのものよりも箱庭世界を構築するほうにハマっちゃってる人が多いっていうのもその理由なんじゃないかなーと思うフシがあります。逆にいうと、ちゃんと飛ばなくても遊べちゃうのがフライトシムの面白さとも言えますね。
もちろん本来はフライトをシミュレーションするゲームですから、飛行機の操縦それ自体を極めていくのは大本流スタイルです。ほかにも色々なプレイスタイルがありますが、よくみかけるのは以下のようなもので、濃いプレイヤーの場合これら全部に手を出してることが多いです。
飛ぶまでがお仕事のプレイスタイル
本職パイロットのように本物っぽく飛行機を操作する雰囲気を楽しみたいプレイヤーのスタイルです。わたしも基本はこれです。また、本物の飛行機のライセンスを持っている人が、おウチでの遊び&トレーニング用にプレイしている事も多いようです。
現用旅客機では、一度上空にあがると基本的にオートパイロットで予定の航路を飛びますので、飛ぶまでは猛烈に忙しく操作しないといけないけども、飛行中はほぼ画面を眺めてるだけになるスタイルです。このタイプのプレイヤーはプロセスにこだわるので、前もって色々調べて準備する時間が長い、という意味も含みます。
また、このタイプのプレイヤーは、Input/Output デバイスに凝る傾向があり、まずは操縦桿・スロットル・ラダーの三点セットからスタートして、そのうちスロットルを複数にしたり、オートパイロット操作パネルを導入したり、ディスプレイを三面にしたりと、どんどんPCに接続する装置が増えていくことになります。このスタイルは究極までいくと、自宅に本物そっくりのコクピットを構築しますが、ここまでいける人はほんの一握りです。ちなみに最近は、東京や神戸他にハイクオリティなホームビルドコクピットを使ったフライトシミュレーターを時間単位支払いでプレイできる場所ができました。良い時代になりました。
ゲームを起動してない時がお仕事のプレイスタイル
先に述べた『アドオン』(MOD)を活用してこつこつと自分の箱庭を構築していくプレイヤースタイルです。
例えば X-Plane の場合、シミュレーション部分は相当に作り込まれてるんですが、空港のシーナリ(風景データ)は全世界を網羅する都合でかなり適当な使い回しの作りのが多い…そして、リアルとかけはなれた空港の風景を見てどうにかならないかな…?とアドオンを探してみたりするわけです。そして大きな空港であれば良さげなアドオンが実際にみつかったりします。また、アドオンは機体やシーナリ(風景)を追加するだけでなく、雲や空の表現がよりリアルになったり、空港の車両だとかが本物っぽく動くようになったり、AI機(普通のゲームでいうところのボットとかNPC)が実際に近い感じに運行するようになったりします。
しかし、ひとつ良くなるとこんどは別のところが気になり始める…そのうちシムを起動して飛んでるよりも、アドオンをネットで探したり、アドオン同士の競合や不具合にぶつかってそれを解決したり、そういう起動してない時間の作業がどんどん増えていきます。旅客機マニアであれば、塗装にも拘りたい人は多いでしょう。機体の塗装テクスチャ変更をフライトシム界隈では『リペイント』といいますが、思い入れのある航空会社のリペイントが探しても無いときに自分でペイントツールを使って塗っちゃう人はけっこういます。この沼にズブズブはまってしまった人は、しまいに自分でモデリングツールを使ってこつこつとオブジェクトを作って追加していったり自分の街のシーナリーを構築したり、あるいはアドオン機体を自作したり、究極的には自分でアドオンを公開/販売する所まで行く事になります。
コンバット系のプレイスタイル
わたくし DigiSapo はどちらかというと民間機メインですが、フライトシムではコンバット系も人気があります。コンバット系はおおまかに”飛ぶまでがお仕事”のスタイルが近いのではないかな、と思ってます。
「コンバット」と言うぐらいですからもちろん戦闘を含むミッションやキャンペーンシナリオがあるわけですが、リアル系コンバットシムは一般のシューターゲームのように「とりあえずゲームスタートして、出てくる敵を適当に倒しながらゲームに慣れていく」という風には行きません。リアルな戦闘機の飛ばし方を覚えてからレーダーや武装システムの仕組みや操作方法を理解し、その上でリアルな空中戦のセオリーに沿った戦闘のテクニックを覚える。ミッションではまずブリーフィングを読んで、どういう手順で何を攻撃してどこへ帰投するか事前にちゃんと把握しなければいけない、などなど実は民間機シムよりもプレイにあたって覚えないといけない事柄が多かったりするんですね。
必然的に座学が多くなり、マニュアルを読み込んで理解を深めたり、起動しても地面に駐機したままスイッチをパチパチやって動作を確認したりする時間がすごく長くなります。このように戦闘ミッションを真面目にこなそうとすると思いのほかハードルが高いコンバットシムですが、リアル系コンバットシムの代表である DCS World にはミッションエディタという機能があって、これを使うと座学は程々にして『箱庭プレイ』に没頭するというプレイスタイルが出来ます。ミッションエディタを使うと組み込みのユニットを自由に配置してミッションを自作できるんですが、自分で一切操縦しなくても空/地上/海の敵味方AIユニットを適当に配置してやるとそれらのユニット同士が勝手に交戦を始めてくれます。ただ配置して眺めるだけでもけっこう面白いのですが、ユニットの移動や行動の条件を細かく設定していって、様々なシチュエーションを作ってみるのはかなり楽しくて時間を忘れてハマってしまいます。
DCS の場合 FSX/P3D ほど多種多用ではないものの、機体やシーナリのMOD供給はコンスタントにあって今後の展開も期待できます。
…と、このようにリアルに飛行機を飛ばす以外にも色々遊び方のあるフライトシム、実際に遊んでみたくなった方は→ フライトシミュレータの始め方 をご覧ください。